初めてキスをした時、頭のてっぺんから爪先にかけて
鋭く、甘い痺れが
駆け抜けた
炭酸ラバーズ 少年編
カカシとの初めてのキスには、性的な意味合いは含まれていなかった気がする。
俺はその日いつも通りカカシに修行をつけてもらおうとカカシの家まで行ったが、肝心のカカシはいなかった。俺はどうしてもカカシに修行をつけてもらいたかったので、里中を探し回った。探し回ったと言っても、カカシの行く先はたかがしれている。目星をつければ俺は少しの時間でカカシに会うことができた。
「カカシ。」
「あんた、こんなところにいたのか。」
カカシは4代目の顔岩の上にポツンと、一人座って里を見下ろしていた。俺の呼び声には振り向きもしなかった。
近寄ってみると、カカシは長くて細い足を放り出すような子供っぽい感じで座っていた。その時口布も額あてもしていなかったので、俺は少しドキリとした。俺がカカシの素顔を見たのはこれが初めてだった。
里を見渡す目は確かに前方に向けられているのに、遠い空間を見ているようだった。放心したような表情はやけにあどけなくて、無防備だった。
「カカシ。」
放心しているカカシに訝ってもう一度俺が呼ぶと、カカシは、ポツリと一言呟いた。
「先生は、死んだんだ。」
まるで、自分に言い聞かせるような言葉だった。
カカシは空を仰いでゆっくりと息を吸い込むと、すすり泣くように息を細く吐いた。
俺にはその時の左目の傷が、泣いているように見えたんだ。
「カカシ…」
カカシの真後ろにたった俺にカカシはやっぱり振り向かなかった。
俺は後ろからカカシの傷ひとつない真っ白な額に手をおいて、陽の光をキラキラと反射する銀髪を顔を後ろ側に倒すようにしてかきあげた。
そして、俺の行為に驚いたのかやっとこっちを見上げたカカシに、
カカシの薄く開いた綺麗な唇に、軽く、触れるように口付けた。
俺の唇とカカシの少し冷たい唇が触れた瞬間、脳髄から背中を通って、足の先にまで、鋭い痺れが走った。
俺は自分の行動とその痛いような甘いような痺れにはっと驚いて飛びのいた。
カカシはというと、俺がキスした時の姿勢で唖然としていた。
空を仰いでいるために薄く開かれた唇にさっきまで自分がキスをしていたのだと考えた途端、俺は思わずその場から逃げてしまった。
何やってんだ、オレは!
走っている最中動転した気持ちを落ち着けて考えた。それでも鼓動はバカみたいに早い。
壊れてしまいそうだ。
俺はあの時なんであんなことをしたんだ?
冷静になり切れない頭で再度自分に問いかけた。
『先生は、死んだんだ。』
カカシが言っている「先生」のことを俺はあまり知らないし、その人が死んだということに対してのカカシの気持ちも俺には推し量れなかったけど、唯、あの言葉をかみ締めるように、自分の心に穿つように言ったときの表情がひどく俺の心をも痛めたので、思わず、本当に思わず、俺はカカシにキスをしてしまったのだ。
泣きそうだった左目から涙が零れ落ちないように。
ただそれだけのことだ。
恋愛感情なんてありはしない。これはカカシがあんまりにも悲しそうだったから思わずやってしまっただけのことなんだ。
オレは何度も何度も自分に言い聞かせようとした。
だけど、その度に何度も何度も同じ疑問が胸の底から湧いてきた。
だったらなんで?
なんで、未だ甘い痺れがぬけ切れない?
<俺はこの突発的とも言える己の行為からはじき出された結論に、後々何年間をも苦しめられるとは思ってもいなかった。>
神経すら破壊しそうな
強烈な痺れ
甘い後遺症に再起不能になりそうだ